後七日御修法

後七日御修法(ごしちにちみしほ)とは現在真言宗で最高の儀式とされ、京都の東寺において毎年1月の8日から14日まで7日間、21座、国家の安泰や世界平和を祈願するため勤められている大法会です。
この修法は平安時代の承和2(835)年,お大師さんが長安留学中に見聞した唐の宮中の内道場の例に従って宮中に真言院を建立し営んだのが始まりです。
その後戦乱や明治の廃仏毀釈で途絶えたこともありましたが、1883年より東寺の潅頂院において粛々と営まれています。
現在真言宗は大本山金剛峯寺を中心とする高野山真言宗、西大寺を中心とする真言律宗など各派18の大本山に分かれており、御修法は唯一全真言宗で行われる大法です。
真言長者と言われるその年の真言宗を代表する最高位の大僧正が各大本山の山主様と上額僧といわれる真言宗全体から選ばれた高僧方14名と共に昼夜にわたり祈りを捧げます。
一宗が一堂に会するこの儀式、少々乱暴ですが、野球で喩えて言えば“オールスター戦”アメリカンフットボールで言えば“スーパーボール”のようなものです。
私は今年度平成26年度御修法に“承仕”として出仕させていただきました。
“承仕”とは仏さまへの供物や道内のしつらえ、または執行補佐など裏方で法会を支える役目であり舞台で言わば照明や音響、黒子のような役回りであります。
しかしこの役職も大変有り難いものです。
お大師さんが御修法の創始を願い出た奏上に『七日の間、解法の僧(法を理解している僧)二、七人(14名)と沙弥(シャミ)二、七人(14名)をえらび、別に一室を荘厳して諸尊の像を安置し、供養の品を備え真言陀羅尼を誦したいと思う』という一文があります。
承仕は沙弥にあたり、この文からも欠くことが出来ない重要な役割を担っていることがわかります。
さて、この修法が行われる潅頂院には堂内東側に胎蔵界曼荼羅、西側に金剛界曼荼羅を安置し、厄難を払う息災護摩壇と幸運を招く増益護摩壇、五大尊壇や十二天壇、聖天壇、神供壇を設けて15名の高僧がそれぞれの場所で配役を司り、祈りを奉修されます。
12日には観音供を勤めますが、このご本尊はかつて天皇陛下の念持仏として住居の次の間に安置されていた二間観音様です。
私はこの御修法に従事させていただき、改めて観じることが沢山ありました。
平成20年が初出仕、今年度で2回目の出仕となりますが、初めての時には解からなかったこと、見えなかったことを観じた経験を持して無事に無魔成満に至ったことはこの上ない幸せでありました。
なかなか言葉では表現することが難しいのですが、皆さまも様々な事柄が“腑に落ちる”経験をされたことがあると思います。
親や先輩、友人、有名なことわざなど「あの言葉はこういうことだったのか」と、自分の心に溶け込んでいく瞬間が。
お釈迦さまから仏教の法灯が照らされて、その流れの中でお大師さんが現れ、そして各時代の先徳方が目指したものは時代を超え場所を超える普遍性を持ったものであります。
その流れにあるものは決して手の届かないものではありません。
それは誰もが持っており観じることができるものです。
お大師さんが好んでお使いになっていた言葉に「還源を思いと為す」というものがあります。
人間が持つ一切の価値は否定されるものでもなければ対立するようなものでもない。
ただ各々の価値の根底には共通の地下水が流れており、この原点を求めることこそ仏教の心髄であり世界平和につながるものであると。
お大師さんを遥かに仰ぎ見ながら、この貴重な腑に落ちる経験が自身のものだけにならぬよう、日々祈りを捧げ精進していこうと京都を後にいたしました。

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