おばけより怖い

目には見えないが怖いものといえば・・・・オバケでしょうか。
私はオバケより、もっと恐ろしいものを感じることがありました。
震災から5年目を迎えた平成28年3月10日、11日、私は東北へ赴きました。
毎年この日に徐々に移り行く東北の景色を感じながら、また東北の方々の力強さに感銘を受けながら慰霊巡拝をおこなっていましたが、今回は少し違った思いを抱いて帰山する事となりました。
私が今年赴いたのは福島原子力発電所の事故により帰宅困難地域に指定され、今でも立ち入ることが許されていない街でした。
3月10日にパラパラと小雨の降る曇り空のなか昼過ぎには東京都から常磐自動車道に入り福島県へ。
首都から遠ざかるにつれ車量も減るなか進んでいると高速道路の掲示板に見かけたことのない表示が出ていることに気がつきました。
『μSv/h(マイクロシーベルト/毎時)』という単位表示が表すこれは、その地点の放射線量を測る為のモニタリングポストです。
現在は広野から南相馬の間に合計9ヶ所設置されているそうです。
はじめはその数字が“0.1”と記されていましたが、目的地の浪江に近づくにつれて“0.6”、“1.9”と増えていき、最も高い掲示板では“4.2”へと増加しました。
今でも原発建屋の周りは100マイクロシーベルトにも上るそうです。
モニタリングポストが設置されていることは知っていましたが、実際初めて目にすると何とも言えない恐怖心が湧きあがってきます。
目には見えない、肌身でも感じることの出来ないが、確実に有る得体の知れないもの。
また福島原発に近づくにつれ高速道路わきの田園には除染作業で出たであろう、放射性物質を含む黒いシートで覆われた土壌集積地が目立ち始めました。
そういったものを目にしたからでしょうか。
双葉町にある浪江インターチェンジで降りて町に入ると、薄暗い静けさが緊張感を高めました。
街を目指して走ると帰宅困難区域の看板が幾つも立ち並んでいました。
ここは放射線量が非常に高いことから、バリケードを張り入出制限を設けている地区で作業員などの方々が持つ許可証が無いと入ることができません。
この景色を見て、随分前に放映された『アフターデイズ』という洋画を思い出しました。
もしも人類が一斉にこの地球上からいなくなればどうなるのか。
原子力施設の爆発による放射能汚染、動物達は人類が消えた町へと進出し新たな生存競争が始まり、都市は植物に覆われていく。
200年も経てば人類の痕跡を発見する事が困難になっていく。
そんな映画であったと思います。
科学的な見地に則り淡々と世界の推移を描いていくドキュメンタリーのようなこの映画が脳裏をよぎるとは思いませんでした。
飲食、アパレル店、ガソリンスタンドなど、5年前より突如人が消えた町になってしまった街並を見ると、復興という言葉が霞んで見えてしまいました。
一体ここで何が起こったのか。
また現時点において何が起こっているのか。
私は本当に起こっている事が何であるのか知る術がありません。
一説には甲状腺癌発生率が異常に高くなっている、一説には放射能の影響はごく僅かなものしかない。
何を信じればよいの分かりません。
ただひとつ言えること、それはこの福島で起きていることが今でもこの地に暮らす方々にとって深い影を落としている。
未だ何も解決していないということです。
同体大悲という言葉があります。
それは仏様が私達と同じく苦しみや悲しみを分かち合い、光明を見いだして下さる慈悲の心を表します。
自分が生まれ育った町に立ち入る事が出来ない苦しみ、現在放射能に汚染されているかもしれない怖れ、未来に災いが降り掛かるかもしれない恐怖は如何程でしょう。
日本国民としてこの深い影に光を指すことが出来るとすれば、まだ福島と共に生きていることを忘れないこと、それを感じること、一人一人の問題として向き合い続けることではないでしょうか。

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