手の間には

彼岸も明けて秋も深まるこの10月、悠悠日記も第3回目をむかえました。
今回の寺子屋新聞の表紙写真にはドングリを使った人形を載せてみました。
そこで質問ですが、ドングリが大好きな2足歩行の生き物ってなんでしょう?…………、そう、正解は“トトロ”です。
実は我が家では彼等?にとても助けられています。
というのも私には1歳半の男の子がいまして、用事があるときなどは“となりのトトロ”を流し、子どもが釘付けになってくれている間に仕事など色々なことを済ませています。
他の子供番組も好きですが、食いつき方が全く違いCMまで目を離さずに見てくれています。
わたしにとっては“トトロさまさま”です。
この映画の公開は1988年、私が9歳のころでしたので自身もよく見ていたのを覚えています。
物語は昭和30年代の日本を背景に、二人の女の子と不思議な生き物“トトロ”との交流を描いています。
私は息子と一緒に見ている間に「なんだかいい時代だな」と、いつも思ってしまいます。
そりゃ電話もないし携帯なんて勿論ない世の中です。
車もほとんど走っていなければ、テレビなどの“三種の神器”も普及以前です。
物語のラスト、メイちゃんが迷子になる場面も今の携帯さえあれば
「今どこ?え、トウモロコシ?お母さんただの風邪だってさ、メール来てたでしょ?」と、こうなってしまいます。
ごはんを支度するにも薪に火をくめなければならないし、米の苗も手作業で一本一本植えている。
この時代と現在と比べれば、ひとつひとつ格段に手間がかかり不便に思えます。
でもサツキちゃんが、病気のお母さんに代わって朝ごはんを作っている場面などを見ると、忘れられつつある日本の心があるような気がして思わずホッコリします。
けれどこれぞ日本の古き良き時代と懐かしんでいるわけではありません。
現在の便利を知っている私が半世紀前のこの生活をすることは無理でしょう。
「そんなに昔がいいと思うんだったら、おまいりに自転車で行きなはれ、そもそも“となりのトトロ”もテレビがあってのことやがな」と言われればその通りです。
それは分かっている、けれども便利になることと心が豊かになるというということは別物ではないかと、このアニメを見て感じてしまいます。
お坊さんがお寺で掃除をすることを“下座行”といいます。
これは自分の心身を普段よりも一段低くおき、日々の生活で積もる心の塵を払うつもりで掃除をする、雑草を抜くときも自分に湧き起こる煩悩をひとつひとつ摘み取るつもりでおこなう修行のひとつです。
高野山での修行中、この下座行は特に厳しく指導下さいました。
山に登るまで仏道について何も知らなかった私は
「なんや何でも修行かい。上手いこと言って掃除さすな」
ぐらいにしか思わず、手を抜いては怒られていました。
しかしいつの頃からか先生の直向きな下座行を見て“エライかっこいいな”と感じるようになりました。
だまされたと思って真似てみるとなかなかいいもので、嫌々おこなっていた当初とは随分違いがありました。
掃除の目標はきれいにすること。
しかし目標までの道中、歩き方によって見えるもの、発見するもの、感じるものが違ってくることを実感しました。
この寺子屋新聞を発刊し、まだ間もないのですが、お便りをいただきました。
おそらく不自由な手で書かれたのが伺える字ではありますが、ハガキいっぱいに手書きで
「今まで思い悩んでいた心の重荷が少し軽くなりました」と綴ってくださいました。
メールが主流のいま、わざわざ手間をかけて筆をとってくださったお返事を目にした時、思わず感謝が生まれました。
益々便利な世の中になり、メールがコミュニケーションの大きな役割を果たすようになってきました。
ついには掃除もロボットが勝手にしてくれるような時代がやってきました。
だが便利だけを追求してしまえば対極にある手間に含まれていたものを見失ってしまうのではないでしょうか。
一斉メールでは、なかなか気持ちは伝わりません。
ロボット代行の下座行では心の垢は洗い流せません。
子どもの頃「米一粒の収穫にも八十八の苦労が詰まっている。
だから“米”と書くんだよ」と何度も言われ、米一粒の大切さを教わりました。
食べ物を粗末にしてはいけない。
当たり前の話ですが、これを実感するためには手間を知る、手間を感じることも必要なのです。
そうすれば手の間にある素晴らしいものを発見できるはずです。
最後に、となりのトトロ上映ポスターに書かれていた言葉を紹介いたします。
“忘れ物をとどけにきました”

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