私が人間である証明

「あなたが人間であることを証明してください」。
私はこの質問に思わず息をのんでしまいました。
東京・お台場にある日本科学館で今年の6月25日から最先端技術の粋を集めたロボットの展示が始まり、多大な反響が巻き起こりました。
中でも流暢にニュース原稿を読み上げる子供型ロボットのコドモロイド、同館の科学コミュニケーターとして人とコミュニケーションを図る大人の女性型ロボット、オトナロイドと名付けられたアンドロイドは実際に近づいても人間となかなか見分けのつかないほどの精巧な出来栄えです。
ある番組でアナウンサーがオトナロイドに自己紹介をしたところ、彼女から先の質問をされ答えに詰まる場面がありました。
彼女たちを開発した大阪大学、石黒浩教授はある番組のインタビューでこう語っていました。
「アンドロイドを研究するということは色んな意味で人間らしさを追求するということである。
感情とは何か、意識とは何か、思考とは、そして人とは何か。
私は幼いころからそういった問題を持っており、それがこの研究を今でも支えてくれている」と。
日本が世界をリードするロボット技術開発にとって人間についての研究こそが必要であるというのは何とも不可思議なことです。
またアンドロイドが人間に近づくほど人間である証明も難しくなってくるのでしょう。
「自分以外の人、生物、物のために祈ることが出来ること」。
これが現在の私なりの答えです。
科学は進めどロボットとはまだまだ遠き存在であり、生涯身近に接することのないものであると思いきや、そうでもありません。
来年には携帯電話会社から人工知能を搭載した人型ロボットが、新入社員初任給程度の価格で発売されるそうです。
1980年代には携帯電話が爆発的に普及することなど考えられなかったのと同じように、ひょっとするとあと20年もすれば一家に一台は当たり前となっているのかもしれません。
映画スターウォーズに登場するR2-D2やC-3POなどのような人間にとって身近で便利なロボットが出てくる未来はもう間もなく訪れます。
一方映画ターミネーターの世界のような恐ろしい未来予測が専門家の間でなされているそうです。
2045年問題と言われ、現在驚異的スピードで進化を続けるコンピューターの集積回路の複雑さがその年に人間の脳を超え、それ以降人類の知能を遥かに凌駕してしまうそうです。
その結果がどういった世界を生み出すのか、またその事前策をアメリカ政府、NASAなどが真剣に研究を始めているようです。
究極のコンピューターとの戦争によって人類滅亡か、はたまた肉体が朽ちても人工頭脳が残り、永遠の命がもたらされるか。
どちらにしても人とコンピューターの立場が逆転する世界が現実的に訪れるようとしています。
そうなると冒頭の質問が恐ろしく感じられます。
この日記で何度か綴りましたが、科学の発展と共に便利な世の中に変化し、その進歩は止むことがありません。
しかしその発展に比例して人が幸せになっているかと言えば、そうではありません。
むしろ人間の必要性が損なわれている側面もあります。
携帯電話が無かったころは、その環境を不便だと感じていたでしょうか。
しかし一度便利を享受してしまうと決して後退できないものです。
遥か昔より、生命の誕生や遺伝子について人の立ち入ることのできない領域は神様や仏様が司り、人を導きそれに対する畏怖の念や共感性、安心、不安などがその倫理をコントロールし、制御する働きを担ってきました。
一方科学の発展の原動力は今も昔も「こんなこといいな、出来れば便利だな」と思う“欲”であります。
仏教ではこれを煩悩と言いますが、今や倫理や宗教、哲学ではコントロールすることのできないまでに肥大しています。
その結果、生命科学では既に生まれてくる子供を選別できる神、仏の領域にまで到達し、コンピューター科学ではそれ自体が脅威になる可能性を含んでいます。
パンドラの箱はとうの昔に開け放たれているのかもしれません。
「便利=幸せ」という定義の間違いに気付き、足を止める時期に来ているかもしれません。

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