Vol.25「”円の中の点 – きっかけとしてのテンプリッシュ -“」樫本 英之さん

はじめまして。
今、私は長弓寺円生院で月一回行われているボランティアプログラム「Templish (テンプリッシュ)」の運営に携わっています。
テンプリッシュは、円生院副住職の宥亮さんの掛け声で集まったメンバーによって作られている小学生対象の「体験型」英語プログラムです。
光栄にも立ち上げ前に声をかけていただき、夢中になって企画し続け、気が付けば毎月心から楽しんで子供たちと触れ合っている自分がいます。
お寺(Temple)と英語(English)を掛け合わせた造語であるこのプログラム名もスタートから一年、すっかり定着してきました。
テンプリッシュでは日本の文化を英語で学びます。
当初案は、お寺を昔の寺子屋のような学びの場として活用し、単に英会話を教えるというものでした。
しかし打合せのために円生院さんに足を運ぶことが多くなり、そのうちに私は「お寺の持つ無限の価値」に着目し始めました。
何かやろうと思えば何でも出てくる魔法の「蔵」。
見渡せば何百年もそこにある、言葉を越えた説得力で静かにたたずむ門やお堂。
身の回りのちょっとしたものも、大事に手入れし長く使い続けるその姿勢。
夜遅く打合せを終えて帰路につけば、真っ暗な道をガイドしてくれる虫や蛙の声、そして月明かり。
有形無形を問わず、お寺にはこうした素晴らしいバリュー(価値)が溢れています。
「そりゃお寺というのはそういうものでしょう」と思うかもしれません。
でも何となくわかっていると思っていることでも、実ははっきり気付いていない事というのは意外に多いものです。
私自身、長弓寺の目と鼻の先に住みながら、こうしてお寺の価値を再発見した一人なのです。
当たり前のようにそこに「在り」続け、真摯にその当たり前を守り続けてきたからこそ、お寺には日本文化のとてもコアな部分が沢山残っていて、その存在は私たちに大きな安心を与えてくれている・・・そのことに気付いた時、これだ!と思いました。
核となる部分が決まると話はどんどん広がっていきました。
餅つきや書道、流しそうめん・・・テンプリッシュではいろんな日本文化を英語で体験します。
準備から片付けまで、体を使って英語を学ぶことを重視しています。
ちょっとした決めごとは「じゃーんけんぽん!」ではなく”Rock,Paper,Scissors,Shoot!”です。
また、春にはお寺の畑で作物を植え、秋に収穫します。
「自分で植えたものを世話して、収穫して食べる」という一連の流れを体験できるのも、長弓寺ならではの素晴らしい特徴です。
畑でさつまいもを掘りながら、”Catapillar!”(青虫)とはしゃぐ子供たち。
かなり面白い光景です。
私たちの子供たちは、今後間違いなくグローバル社会の中で育つことになります。
実際、テンプリッシュのレッスン中でも、ふらっとイギリス人の若者たちが偶然訪れて茶道に参加したり、夏には我が家にホームステイしていたアメリカ人学生を交えて流しそうめんをしたり・・・昔なら作り出すのに大変な労力があったであろう状況も、何もしなくても勝手に身近に起こるようになっています。
そういう社会の中で、自国の文化の素晴らしさを知り、それを共通の言葉で伝えられることはとても大切なことであり、大きな強みです。
いつかテンプリッシュを経験したことで英語に興味を持った子供たちが、自慢げに外国人を連れて長弓寺をガイドして歩く姿をわたしたちチームテンプリッシュは想像してにやにやしています。
私は自分の名前に英語の「英」が入っているのは偶然ではないのではないかと、ずっと思ってきました。
私の人生は、本当に英語によって支えられ、英語への愛情で成り立っているような気がします。
13歳の時に母の勧めで参加したオーストラリアのホームステイプログラムで、満足に話せぬままの最終日、涙を流して別れを惜しんでくれたホストファミリーに対して感謝の言葉をうまく言えないことにとてももどかしく悔しい思いをしました。
思えばあれが英語を話したい!と思った強いきっかけかもしれません。
それからは英語がすべてをつなげてきてくれました。
英語が好きで外国語大学へ進み、アメリカで英語教育を学び、現在の仕事ではたくさんの国でいろんなメンバーと仕事をしてきました。
もちろん多国籍チームの共通語は英語です。
そしてテンプリッシュも、その英語がつなげてくれた大事な縁(円)です。
今はまだ小さな子供たちの円が、これからどんどん、もしかすると海を越えて大きくなるかもしれないその円を、顕微鏡で覗いてみたらその真ん中付近に小さく”Templish”と書いてあった・・・そんなちょっとした、英語への興味のきっかけとしてのテンプリッシュを目指して、これからも楽しみながらプログラムをデザインしていきたいと思っています。

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