Vol.36「“祖師に学ぶ日本の心 ―求法の旅―”」中村 幸真さん(種智院大学 教授)

この度、円生院様と御縁あって一日講座を開講させていただくことになりました。
朝日カルチャーセンター京都の主催ですが、私どもの真福寺仏画導場共催、種智院大学後援講座という名目で、平成25年秋から始まり、円生院様で十ヵ寺目となります。
講座のタイトルは「祖師に学ぶ日本の心―奈良の寺院を巡る求法の旅―」です。
日本に仏教が伝来した飛鳥時代以来、多くの僧侶が命がけで中国に渡り仏法を学び、わが国に多くの経典・文物を請来し、国家建設に尽力し、日本の心の文化の基礎を築きました。
奈良の各寺院には、この日本国家黎明期を支えた祖師たちが鎮座されています。
各寺院でご住職の法話によってその祖師の遺徳を偲ぶことが、報恩謝徳につながると思います。
法話の後、大学教員による仏教の基礎知識を学んでいただきます。
昼食をはさんで午後は仏画を描きます。
御本尊を線で起こしたものを手本に描きます。
円生院様では御本尊不動明王を描かせていただきます。
自らが描くことにより御本尊とより身近に出会っていただけると思います。
上手に描くことではなく線を辿ることにより、そのお姿を心に刻むことに主眼があります。
そしてもう一枚、善財童子を描きます。
東大寺華厳宗の根本経典は『華厳経』です。
この華厳経の中の「入法界品」という段で次のような内容が説かれています。

長者の子である善財という一人の求道者が「菩薩道とは何か」という問いをかかげて、智慧の象徴である文殊菩薩の教えに啓発されて、順次に52人の善知識(有徳の賢者)を歴訪して教えを受け、最後に慈悲の象徴である普賢菩薩と会って、真理の世界である法界に入る行を完成するという物語。

わが国では鎌倉時代にこの場面を絵巻物にしたものが、国宝として今に伝わっております。
善財童子が53人の善知識と出会う場面が清々しく描かれています。
この一場面を順次描いております。
東海道五十三次の宿場の背景にはこの『華厳経』の世界があります。
この講座の目的の一つに、53ヵ寺を巡ることにより自らが善財童子のこころをもって、善知識と出会う求法の旅を目指すことにあります。
科学技術の発達の恩恵で日常の生活は豊かで快適なものとなりました。
有り難いことと思います。
しかしその裏側では自然破壊だけでなく心の荒廃が危惧される今日です。
理不尽な殺戮が繰り返されている毎日を見過ごすわけにはいきません。
国家建設に尽力した祖師方の熱い心を学び、原点に戻って国のありようを考えなくてはなりません。
心の土壌改良を目指して「皆共に仏道を歩まん」思いが必要かと思います。
現代の仏教は高度な学問となり、一般人にとっては難解になりつつある一方では、単なる倫理道徳に陥っているように思います。
仏教の本願は自らの心の中に仏性を見出すことにあります。
幸いにも円生院様では寺子屋活動を通じて子供たちの心に「仏性の種」を植え付けておられます。
頼もしくもあり、是非このような輪が広がることを願ってやみません。

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