"書道家"という言葉を御存知でしょうか。私は自宅で宥亮さんや他の生徒さんに書道を教える傍ら"書道家"として活動をしています。聞きなれない言葉であると思いますが、例えば日本酒のラベルを作成するとき型にはまった書体でなく、文字から蔵元のお酒に込める想いを届けることが出来るようにイメージに合わせて銘を書く、そんな仕事をしています。著名な方であれば大河ドラマ「龍馬伝」の題字を手掛けられた"紫舟"さんや「笑っていいとも」に御出演されていた"森大衛"さんがおられます。
私が書道を始めたのは4歳の時、母が左利きだった私を"書く時だけでも右利きに直してやりたい"という思いから書道教室に通わせてくれたのがきっかけでした。
それから書道にのめり込みかれこれ約30年が経ちました。
これまで書道を嫌いになったことは一度もありません。しかし、中学入学前に一度書道教室を辞めようかと迷ったことがあります。その理由は、部活動等で忙しくなるかなぁという漠然とした理由でした。しかしそんな時、辞めることを引き留めてくださった方がいます。それは、長年ご指導くださっていた師匠である山本梅径先生でした。 書くことが人一倍大好きで熱心に取り組む姿を見逃すことなく、「ここで辞めてしまったらもったいない」と引き留めてくださったのです。あの時に辞めていたら今の私は当然いませんし、山本先生には感謝の想いでいっぱいです。
"文字"とは言語を伝達したり記録したりするための手段とは別に、感情や情景などを吹き込むことが出来ます。 書道家になって間もないころ、京都伏見区にある藤岡酒造さんから一升瓶ラベルの筆文字デザインの依頼がありました。聞くと「"蒼空"という字で澄み切った空を見上げた時の気持ちを表してほしい」といった要望でした。
それから何度も何度も晴れた日に空を見上げては制作に打ち込み、作品を持って行っては「まだ何か違う、もうちょっと女性らしさを」などと様々な要望を申し出てこられ、気が付けば完成までに1年の月日がかかっていました。初めての経験で苦戦しましたが、その時に書道家とは"自分らしさ"を表現するだけではなく"人の心"や"自然"といった自分以外のものを書で表現することが最も大切なことに気づくことができたのです。 それ以来"心を借りて腕に託し筆で表す"この言葉を自身のテーマとして活動をしています。
他の書道家の方に「将来の目標は?」と聞くと、「誰にも書けないような作品を書きたい」という方が大半だと思います。
しかし私の目標は、更に書道の基礎を磨き上げることです。なぜなら基礎を極めればおのずと自由な表現ができると信じているからです。欲することなく、これまで培ってきたものを順番通りにこなせば、新しい書の世界が自然と拓けるそう信じてこれからも人様に喜んでいただける活動を続けたいと思います。